U・医師会が果たすべき役割(特に倫理的な側面について)
平成13年10月7日(担当) 小森 貴
最近の医療改革の議論を鳥瞰すると、医療提供システムの効率性の多寡に終始しているといっても過言ではない。医療の社会化に伴う、いわば枠組みの経済性の好悪を論じているばかりである。人間が生命体として本質的に持つ体や心の悩みや苦しみを、やはり心も体も弱い別の人間が、ともに生き、ともに感じつつ、苦しみの癒しに務めるという、人間としてのもっとも根源的な営みこそが医療であることを確認する必要がある。
医療の含有する本質を見つめると、これから変革する医療システムの持つべき妥当性は自ずと明らかになってくる。医療を受ける国民の視点に立つことは、決して、いわば市場原理の勝者の観点であってはならず、むしろ敗者の視点でなければならない。我々医師はこのことを日常の診療において病者から学んでいるのである。医療の本質を確保した上での効率性、経済性の議論をこそ希求するものである。
医療システムの変革期にあたり、医師のひとり一人が、医療の原点に立ち返る作業を不断に行うことが、国民から求められているのである。この厳しい倫理的な立場を自ら律していくことがなければ、医師・医師会と国民との信頼感の醸成なぞあり得ない。
病者の求めるもの、あるいは社会が求めるものに透明性・科学性・倫理性の三点が挙げられる。この三点の確保のために医師会は次の施策を実行すべきであろう。
1・透明性
@ カルテなど診療記録の全面的な開示を行うこと。診療記録のあり方についても改革すること
A 不当な医療行為、診療請求については医師会独自の施策により、罰則を伴った規制を行うこととし、自浄性を堅持すること
B 診療行為そのものが透明性を持つよう種々の施策を講ずること
2・科学性
@ 医療行為の妥当性、科学性を担保するため、種々のガイドラインの作成を急ぐこと。ガイドラインの実際的な運用にあたっては、病者の実情と多様性に応じ柔軟に行われるが、他者からの評価を担保する観点から、医師会の主体性な運用評価機構を策定すること
A 医療行為が医師の個人的な経験学に偏ることを避けるため、生涯を通した教育学習制度を確立すること。年毎に一定の学習期間を設け、他者機関に評価される教育センターでの学習を義務付けること。保険医資格を有限とし、指定権限を医師会が保持すること
3・倫理性
@ 医師に対しては一定の期間毎に、ボランティア活動など、他業務の社会奉仕活動を行うことを義務付けること。このプランニングについては医師会の裁断とし各プランの終了後に評価を行うこと
A 若手医師の卒後研修については、大学病院、研修指定病院と並んで地域医師会での臨床研修を必須とし、その研修については医師会で計画を策定し、遂行すること。また研修については計画、実行、評価のいずれにおいても第三者からの評価をあわせおこなうこと
以上は日本医師会第二次未来医師会ビジョン委員会において、小生が担当した論点メモの一部分である
論点メモの他の部分は別に掲載されている
答申の全文は日本医師会HPに掲載されている(要会員用パスワード)
日本医師会HP