大統領の補聴器
ビル・クリントン米大統領は現在53歳。
彼は2年前から補聴器の愛用者です。
「えっ、そんなに若いのに」と驚きましたか。
しかし、私たち耳鼻咽喉科の医師にすれば、ごく普通のこと。
早い人で35歳、平均して40歳ごろから
耳の聞こえは悪くなっているのです。
私は50歳だが、よく聞こえるという方もいらっしゃるでしょう。
しかし20歳のころより明らかに聴力は衰えています。
鳥のさえずりや木の葉のサラサラいう音が聞き取りにくくなっても、
私たちは気にも留めません。
日常会話が不自由になって初めて、私たちは聞こえづらさを自覚します。
それは平均して65歳から70歳。
老化が始まって、実に3,40年後です。
穏やかに悪くなっているため衰えが自覚しにくいのですね。
クリントン大統領が50代前半で聞こえづらいと感じても
不思議ではない理由が分かっていただけたでしょうか
大統領のように大切な決定権を持つ人が、
一言も聞き漏らすまいと積極的に聴力を補うのは当然です。
相手の言い分を聞かなければ
自分の主張をすることもできません。
人の聴覚は、父母のDNAが結び付いた瞬間から
決められた道筋をたどって衰えていきます。
気に入らない道でも変更できません。
でもあきらめないで。
歩き方は工夫できます。
これからは、社会全体で歩き方を考える時代です。
北國新聞 平成12年1月3日号から改変